外資系IT企業では、OTE(On Target Earnings)とは別に、RSU(Restricted Stock Unit)などの株式報酬が給与パッケージに組み込まれているケースが多いです。本記事では、外資IT勤務、または外資系企業への転職を検討している読者を対象に、RSUの基本、具体的な運用、税務面までを網羅的に解説します。併せて、確定申告時に活用できるスプレッドシート(後日公開)についても触れる予定です。キャリアやライフプランに合わせ、ぜひ参考にしてください。
1.RSUとは何か
1-1. 基本的な定義
RSU(Restricted Stock Unit)とは、従業員に付与される株式報酬の一種であり、特定の条件(一定期間の在籍や業績目標の達成など)を満たすまで制限(リストリクション)が付いた「株式の受け取り権利」を指す。
条件を満たすタイミングで制限が解除(Vest)され、従業員は実際に株式を受け取れるようになる。
この「制限解除」のことをVest(ベスト)と呼ぶ。
1-2. 通常の株式やストックオプションとの比較
• 株式そのものとの違い
RSUは、制限が解除されるまで「将来の取得権利」であり、取得前は株主としての権利を持たない。
• ストックオプションとの違い
ストックオプションは、定められた行使価格で株式を購入できる「権利」であり、株価が行使価格を上回るとその差額が利益となる。一方、RSUはVest時点の株価をそのまま報酬として受け取る形になる。
外資IT企業がRSUを採用する背景には、社員のリテンション(長期在籍)を図りやすいことや、株主価値の成長を社員にも還元しやすいメリットがある。
2. 外資IT営業の給与構造
以下の図は、外資IT営業職の給与構造を示したイメージの一例である。
3. RSUの相場は? 年収に対してどのくらいか
3-1. 報酬パッケージの一部としてのRSU
外資IT企業の報酬パッケージは、OTE(On Target Earnings)に加え、「株式報酬(RSUなど)」や「ボーナス(業績連動)」で構成されることが多い。新規採用や昇給時に、数年分に相当するRSUの総額が提示され、それを複数年にわたって段階的にVestさせる形が一般的である。
3-2. レベル・ロール別の目安
• エンジニア職
シニアエンジニアクラスでは、年間ベースサラリーの10〜15%程度のRSUを付与されるケースがある。
• 営業職
OTE(On Target Earnings)の10〜20%程度をRSUで付与される例があり、マネージャーやディレクタークラスではさらに大きな比率となることもある。
新興企業ではストックオプション主体の場合もあるが、企業文化や事業フェーズによって条件は大きく異なる。
実例:営業職でOTE 2,000万円、RSU約4万ドル
営業職(OTEが2,000万円)で入社し、約4万ドル相当のRSUを付与されたケースが報告されている。OTE比で15〜20%ほどであり、外資IT営業としては妥当な水準と言える。
また、上場前の企業であってもRSUを付与するケースがあり、上場時に株価が大幅に跳ね上がった結果、年収が一気に数倍(例:6,000万円相当)へと増えることもある。
4. なぜ企業は現金の代わりにRSUを付与するのか
4-1. RSU付与の目的
1.
社員のリテンション強化• 数年かけて段階的にVestさせることで、中長期的に会社に残る動機づけを高める
2.
企業業績や株価成長との連動• 企業としては、現金給与を大幅に増やすことなく株式価値の上昇を従業員に還元できる
4-2. 現金給与との差別化
RSUは株価が上がれば報酬価値が大きくなる一方、株価が下落すると期待値を下回るリスクがある。また、アメリカ株で付与されるケースが多いため、為替レートによる目減りや増加といった「為替リスク」も発生する。
企業と従業員双方のメリット・デメリットを分かち合う仕組みだといえる。
5.RSU付与のタイミングとVestの仕組み
5-1. 「Vest」とは何か
Vest(ベスト)**とは、RSUに付与されている制限(リストリクション)が解除され、従業員が実際の株式を手にすることを指す。
5-2. 入社時の一括提示
外資IT企業では、入社時に「4年間で合計○○ドル分のRSUを付与する」といった形で一括提示することが多い。たとえば「Amazonの場合は1年目5%、2年目15%、3年目40%、4年目40%」といったように、年単位でざっくりと付与割合を変えているケースがある。
一方で、「1年目が終わった段階(クリフ)で全体の20%がVestされ、その後は四半期ごとに5%ずつVestされる」といった形で4年-5年にわたって均等にVestされていくパターンも非常に多い。具体例を挙げると以下のようになる。
具体的な例:4年合計1,000株のRSUが提示された場合
2.
2年目以降• 残りの80%(= 800株)を四半期ごとに均等にVest
• 1四半期あたり約5%(= 50株)がVest
• 2年目~4年目の計12四半期で合計800株がVestされる
このように、企業やポジションによって初年度の付与割合や二年目以降のVestの刻み方は千差万別である。おおむね「初年度クリフ+月次または四半期Vest」という設計が多い点は共通している。
5-3. 年次評価や臨時付与
• 年次評価サイクル(Refresh Grant)
毎年の評価や昇格に合わせて新たにRSUが付与される場合があり、ミルフィーユ状に報酬が積み重なる
• 上司の裁量予算(スポットボーナス的なRSU)
営業職や管理職などでは、特に成績が優秀なメンバーに追加RSUを付与するケースもある
5-4. ミルフィーユ式に積み上がり、辞めづらくなる現象
複数のRSUグラントが重なることで、常に未Vest分が存在し、**「今辞めるとこれからVestする分を失う」**という心理的・経済的ハードルが高まる。結果として社員のリテンションが高まりやすい構造になっている。
6.未上場企業のRSUと現金化の機会
6-1. 上場前でもRSUを付与する企業がある
未上場のスタートアップや、親会社がファンドである外資系企業でも、RSU(あるいはRSUに近い仕組み)を採用する場合がある。
• 上場前は株価評価が不透明だが、上場後に株価が急伸すれば大きなリターンを得られる可能性がある
6-2. 在籍中に買い取り制度を設ける企業(Bytedanceなど)
Bytedanceなど、一部の企業では従業員が保有する株式やユニットを会社側が買い取る制度を整備している。
• 在籍中でも株式を現金化できる機会があるため、上場を待たずに利益を確定しやすい
• 買い取り価格やタイミングは企業の方針で変わるため、すべての社員がいつでも売却できるわけではない
7. RSUの下落リスク
7-1. 株価下落による損失リスク
RSUは株価上昇の恩恵を受ける一方、株価が下落すると報酬価値が急激に目減りする。さらに、海外株(米国株)で付与されることが多いため、円高・円安の影響を受ける「為替リスク」も加わる。
Vestされ、いざ現金化しようとしたタイミングで株価が暴落している可能性に加え、為替レートが不利な方向に動いている場合も想定すべきだ。
7-2. 著者(市川)の体験談
筆者・市川が以前経験した例として、「手元に保有していたRSUが短期間で1/3に暴落し、所得税を差し引くとほとんど利益が残らなかった」というものがある。
RSUはVest時点の評価額が給与所得として計算されるため、暴落後でも高額な所得税を支払うリスクがある点に注意が必要だ。
8. 予定されていたRSUが全てVestしたら、その後はどうなるか
8-1. Vest完了後の扱い
すべてのRSUがVestすると、当該株式は従業員の完全な所有物となる。追加付与がない限り、これ以上の株式報酬は発生しない。
8-2. 再付与(Refresh Grant)
企業によっては、評価や昇格をもとに新たなRSU(Refresh Grant)を定期的に付与するケースがある。複数のRSUが段階的にVestしていくことで、リテンション効果が高まる。
9. RSUを支給する企業はどこか
9-1. 日本に進出している外資IT企業の多くでRSUが採用されている
多くの人が、GAFAMやユニコーン企業など大手IT企業をイメージするが、実際には日本に進出している外資系IT企業のほとんどが、何らかの形で株式報酬(RSUもしくはストックオプション)を報酬の一部に組み込んでいると言ってよい。
• 上場企業であれば大手に限らず、RSUを支給しているケースが非常に多い
• 非上場企業でも、RSUに近い形で株式ユニットを付与している例があり、上場やM&Aのタイミングで一気にリターンを得る可能性がある
9-2. 付与されるロールとされないロールの違い
管理職や高度専門職などの報酬レンジが高めのロールにRSUを付与する企業が多い。一方、新卒やジュニアクラスはサインオンボーナスが中心で、RSUの比率が低いケースもある。
とはいえ、企業によっては全社員に対して一定のRSUを付与している場合もあり、職種を問わず株式報酬を受け取れる可能性は十分ある。
10. RSUの確定申告
10-1. 課税タイミング
日本の税制では、RSUのVest時点の株価評価額が給与所得(あるいは退職所得)として扱われる。企業による源泉徴収が不十分な場合、自分で確定申告する必要がある。
さらに、売却時にはVest時点の取得単価との差益が譲渡所得として課税され、約20%の税率(復興特別所得税を含む)がかかる。
10-2. スプレッドシートの活用ガイド
本記事の読者用に、チャレンジャーベースにて作成したGoogle Sheets版のRSU管理スプレッドシートを配布している。オリジナルのシートはロックしてあるが、各自Googleアカウントでコピーを作成することで、そのコピー上でRSUの所得計算を行うことができる。
1) 必要情報の整理
2) 年間スケジュール管理
3) 自動計算機能
4) サマリーシート
10-3. 確定申告の実務ポイント
• 源泉徴収票の確認: 企業が源泉徴収を行うケースでも、最終的な所得額と実際の天引き額に差がないか要チェック
• 必要経費や控除: RSU以外にも所得がある場合、損益通算や各種控除を駆使して税額を適正化
• 専門家への相談: 取引回数や金額が多い場合、スプレッドシートを活用していても最終的な確認を税理士に依頼するのが安心
11. 確定申告を行わなかった場合のリスク
11-1. 追徴課税や罰金の可能性
RSUによる所得を申告しないと、後から国税庁の調査が入り、追徴課税や延滞税、加算税を課されるリスクがある。過去の事例では、海外報酬を申告していなかった社員が大きな税額を後からまとめて請求されたケースも存在する。
11-2. 国税による調査事例
海外の金融機関との情報交換が進む中、「海外口座だからバレない」という考えは通用しなくなっている。最悪の場合、刑事罰に至る可能性もゼロではなく、申告漏れには十分注意が必要だ。
12. 転職時におけるRSUの扱い
12-1. 未Vest分は原則として消滅
多くの企業では、在籍期間がVestを満たさない場合、未VestのRSUは転職時点で消滅する。よって、転職のタイミングを決める際には、未Vest分の価値を考慮しなければならない。
12-2. 失ったRSUを補填するサインオンボーナスや新規RSU
転職先が、前職で失うRSUを見込んだサインオンボーナスや新規RSUの付与を提示することがある。交渉時に、前職のRSU状況を具体的に示すことで、オファー条件を有利にできる可能性がある。
12-3. RSUの完全な移管はほぼ不可能
在籍中のRSUをそのまま転職先に移す仕組みは一般的には存在せず、転職前のRSUは消滅or Vest済みの分だけ残り、転職先では新規のRSUが付与される形になるのが通常である。
13. ブローカー・銀行の選択とその他Tips
13-1. ブローカーの提携先
多くの外資IT企業は、Morgan StanleyやFidelity、Merrill Lynch、Bank of America、Charles Schwabなど特定のブローカーと提携し、従業員は基本的にそのブローカーを利用する。自由にブローカーを選べるケースは少ない。
13-2. 売却後の受け取り口座
• 住信SBIネット銀行・SBI証券の連携
米ドル建て資金を住信SBIネット銀行に送金し、SBI証券の外貨入金機能を使って米国ETF(VOO、VTIなど)を買い付ける流れがよく見られる。一時的にMMFで運用しておく選択もある。
• 手数料を踏まえた最適ルート
海外口座→日本国内への送金手数料が比較的安いとされるソニー銀行の利用など、ネット銀行や証券会社を併用することで費用を最適化する方法がある。
13-3. 少額の米ドル残高について
売却後に少額の米ドルが残った場合、円転するかMMFに入れるか判断が必要だ。大きな金額であれば為替や投資タイミングを慎重に考えるが、少額ならこまめに円転してしまうのも一つの手段である。
13-4. 税制上の得はあるか
日本では長期保有による税率優遇がないため、譲渡益税率は一律約20%(復興特別所得税含む)となる。海外赴任や非居住者の場合は別途ルールがあるため、専門家への相談を推奨する。
14. 執筆の背景
筆者は外資系IT企業にてRSUを受け取り、Vest・売却・申告といった一連の手続きを実際に行ってきた経験をもとに本記事を執筆している。ただし内容は一般的な事例や個人的な経験談に基づくため、実際の運用や税務申告にあたっては各自が所属企業やブローカー、税理士などに確認してほしい。
まとめ
RSUは株価上昇の恩恵を受けやすい一方、下落リスクや税務面の煩雑さを伴う報酬制度である。特にVestされたタイミングが社員にとっての「実際の報酬受け取り(現金化可能)タイミング」であるため、この点を正しく理解しておくことが重要だ。
- 転職時には未Vest分が消滅するため、サインオンボーナスや新規RSU付与で補填可能か交渉する
- ブローカーは企業指定が多く、売却後の米ドル資金をどう扱うか(再投資か円転か)は手数料や為替を考慮して最適化する
- 未上場企業のRSUは流動性が低い場合もあるが、買い取り制度(Bytedanceなど)がある企業では在籍中に現金化の機会がある
- 申告漏れや下落リスクに要注意:Vest時点の評価額で給与所得として課税されるため、暴落後でも高い税金を支払う可能性がある
是非、スプレッドシートを活用しながら、自分のキャリアプランやライフステージに合ったRSU戦略を練ってほしい。
最後に
本記事は、WorkCircleにおける「現役外資IT社員のためのRSUガイド」の一環として制作している。今後、ストックオプションやESPPなど、他の株式報酬制度についても情報を拡充する予定である。質問やリクエストがあれば、WorkCircle上でコメントやメッセージを寄せてほしい。
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